『具体⇄抽象トレーニング』をMBA的視点で読み解く

「なんであの人とは話がかみ合わないんだろう?」 「どうしてこんなに意見がズレるんだ?」ビジネスの世界でこんな経験、ありませんか?その答えの一つが “抽象化のレベルの違い” です。

MBAでは、ケーススタディを通じて様々な業界の課題を分析し、戦略を考える機会が多々あります。その中で気づいたのは、「具体的な事例に囚われる人」と「抽象的な本質を見抜く人」では、議論の進め方も、意思決定のスピードも大きく違うということ。

そんな中で出会ったのが 『具体⇄抽象トレーニング』(細谷功 著) です。この本は、具体的な事例から抽象的な概念を導き出し、それを別の事例に応用する力を鍛えるための一冊。読んでみて、MBAの学びとリンクする部分が多くあり、「これ、仕事にもめちゃくちゃ役立つな…」と実感しました。

そもそも「具体」と「抽象」って?

まず本書では、「具体」と「抽象」の行き来が思考の本質であると説かれています。

  • 具体とは? 目の前の事象や事例(例:成功したスタートアップの事例)
  • 抽象とは? 複数の事例から共通点を抜き出してまとめた概念(例:スタートアップ成功の法則)

たとえば、MBAの授業では、企業のケーススタディを使って「なぜこの会社は成功したのか?」を分析します。その過程で、「これはこの企業だけの話なのか? 他の企業にも適用できる原則なのか?」を考え、具体と抽象を行き来します。

つまり、「具体」と「抽象」を自在に行き来する力は、ビジネスリーダーにとって必須スキルなのです。

なぜ抽象化が重要なのか?

ビジネスにおいて、抽象化のスキルは超重要です。MBAの授業でも、ケーススタディを通じて「個別の事例を抽象化し、他のビジネスにも適用できるようにする」ことが常に求められました。例えば、ある企業のマーケティング戦略が成功したケースがあったとして、それを「単なる成功事例」として終わらせるのか。それとも「この成功を生んだ本質的な要因は何か?」を見極め、他のビジネスシーンに応用できる形で抽象化するのか。ここに大きな違いがあります。

Case1: ユニリーバ・ブラジルの成功

例えば、授業でユニリーバ・ブラジルのケースを考えてみましょう。単に「低所得層向けに小分けパッケージを売るのが有効だった」という話では終わりません。その背景には、「価格弾力性の高い市場では、単価を下げてでも試しやすい形にすることで購買につなげられる」という原則がある。この原則を抽象化すれば、消費財以外の業界でも応用可能です。

たとえば、SaaSビジネスなら「フリーミアムモデル」、自動車業界なら「低額のサブスクリプションプラン」などに応用できるかもしれません。

もし、目の前の具体的な現象にだけ囚われてしまうと、「それってウチの業界では通用しないよね」という思考停止に陥ってしまいがちです。しかし、抽象化ができれば、「本質は何か?」を見極め、異なる業界や課題にも応用できるようになります。

MBAでは、常に「このケースの本質的な教訓は何か?」「他の業界や国でも通用するか?」と問われる環境に置かれます。具体と抽象を行き来しながら、より広い視点でビジネスを捉えられるようになるのです。

抽象化の難しさ

MBAの授業では、抽象化のレベルによって議論の深さや質が大きく変わることを実感します。授業のケーススタディで、問題解決のための議論を行う際、具体的な事例に囚われがちな参加者と、抽象的に本質を捉え、応用可能な知識に変換する参加者の差が明確に現れます。

Case2:なぜSNSマーケティングは成功したのか?

例えば、ある授業で「なぜこの企業は成功したのか?」を議論した際、次のような違いが生まれました。

  • 具体レベルの人: 「この企業はSNSマーケティングが上手かったから成功した」
  • 抽象レベルの人: 「この企業の成功要因は、低コストで顧客エンゲージメントを高める手法を確立したこと。その手段としてSNSがあった」

具体レベルの人は、目の前の戦術や手法に焦点を当て、「SNSマーケティングが上手かった」という点に注目しがちです。しかし、これはあくまで表面的な成功要因です。SNSが成功した理由の本質は、単にマーケティング手法にあるのではありません。顧客とコスト効率の関係にあると捉えることが重要です。

また、SNSマーケティングの分析時、最も重要なのはその手法自体ではありません。

その企業がどのように顧客とのエンゲージメントを強化し、コストを最小化しながら価値を提供したのかという視点です。このような原則を抽象化することで、異なる業界やビジネスシーンにも通用する知識として生かすことができるのです。

意思決定レベルの変化

抽象レベルの人は、成功した企業が採用した「低コストで顧客エンゲージメントを高める手法」という本質を見抜き、それがSNSに限らず、他の顧客接点やビジネスモデルに応用できることに気づいています。この違いは、まさに『具体⇄抽象トレーニング』で学んだ重要なポイントに繋がります。抽象化のスキルが高ければ、高いほど、学びの質や意思決定のレベルが向上します。

抽象化のスキルなしでは、目の前の成功事例や問題に焦点を当ててしまうでしょう。そして「その手法は他の業界には通用しない」といった思考停止に陥りがちです。しかし、抽象化のレベルを高めることで、問題の本質を捉え、異なる業界や課題にも柔軟に対応できるようになります。

抽象度の高い視点の有無で、学びの質や意思決定レベルが変と実感しました。

どうやって抽象化のスキルを鍛える?

『具体⇄抽象トレーニング』では、抽象化のスキルを高めるための実践的な方法として、以下の3つのステップが推奨されています。

  1. 具体的な事象から共通点を見つける
  2. 抽象的な概念を作る
  3. 別の分野に応用する

このプロセスは、具体的な事例を集め、それらの共通点やパターンを抽象化して理解し、その後、異なるビジネスシーンにどう応用できるかを考えます。この一連の思考法が、ビジネスを成功に導く上で不可欠なスキルとなるのです。

1. 具体的な事象から共通点を見つける

例えば、ファストフード業界とファッションブランド業界を比較します。最初は全く異なる業界に見えます。しかし、視点を変えると、「顧客に提供する体験」が共通して重要な要素であることがわかります。ファストフードでは、短時間で簡便かつ満足度の高い食事体験を提供し、ファッションブランドでは、消費者にブランド価値を体験させることが求められます。このように、一見無関係な事象からでも、共通点を見出すことが抽象化の第一歩となります。

2. 抽象的な概念を作る

次に、これらの共通点を基に抽象的な概念を作り上げます。ファストフードもファッションブランドも、最終的には「ブランド体験」が鍵だと見えてきます。ここで重要なのは、この抽象的な概念が業界を超えて通用する普遍的な原則として機能する点です。MBAの授業では、こうした抽象的な概念を見つけ、ビジネスの戦略や意思決定にどう活かすかを常に考えます。

ブランド戦略を立てる際、「顧客体験」を基盤にしたマーケティング活動が成功の鍵であるということが、ファストフードでもファッションでも共通する原則だと気づくことができます。こうした原則は、他の業界にも応用可能な普遍的な概念として活用できるのでしょう。

3. 別の分野に応用する

最も難しいのが、抽象的な概念を別の分野に応用することです。例えば、金融業界においても「ブランド体験」の重要性は理解できるでしょう。投資家や顧客に対して、どのようなブランド体験を提供するかが、企業の信頼性や魅力に大きく影響します。ここで重要なのは、ファッションやファストフード業界で培った「顧客エンゲージメント」を、金融サービスにも適用できる可能性を見出すことです。

MBAのカリキュラムでは、こうした思考の柔軟性を鍛えるために、さまざまな業界のケーススタディを扱います。そして異なる領域でも通用する普遍的な原則を見出す訓練が行われます。このプロセスを通じて、抽象化のスキルを実践的に高めていきます。

まとめ:思考の解像度を上げる

この本を読んで感じたのは、抽象化のスキルがあるかないかで、世界の見え方が全然違うということ。

実際、MBAの授業では、「抽象化できる人」と「具体レベルで止まってしまう人」で議論の質に差が出ます。例えば、経営戦略の授業で「Netflixはなぜ成功したのか?」というケースを議論するとき、

  • 具体レベルの人:「コンテンツが良かったから」
  • 抽象レベルの人:「サブスクリプションモデルの本質的な強みとは?」

と、視点が変わってきます。

この違いが、ビジネスの意思決定や戦略策定において、大きな差を生むわけです。

『具体⇄抽象トレーニング』は、単なる思考法の本ではなく、ビジネスで成果を出すための武器になる一冊です。

MBA的に言えば、

  • 「具体と抽象の行き来」は、ロジカルシンキングの基礎スキル
  • 抽象化できると、どんな状況でも応用が効く
  • この力があるかどうかで、キャリアの選択肢も変わる

ということ。

日々の仕事や学びの中で、「これは具体? それとも抽象?」と意識するだけでも、思考の解像度がグッと上がるので、ぜひ試してみてください!



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